【SS】眠れる猫は夢をみる
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1 名前:カレル[age] 投稿日:2023/11/17 20:33:01 ID:.JjfUKJQMf
こんにちは
35作目の「眠れる猫は夢をみる」です。
本作は「アニマエール!」の二次創作です。
少しシリアスになるので、気を付けてください。

2 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:33:33 ID:.JjfUKJQMf
[プロローグ]

 夏前特有のじめっとした空気が体育館を覆っている。チアリーディングの大会を一週間前に控え総仕上げの時期、あたしたちはこの空気を跳ね返すように声を出している。
 練習の出来は上々でこのまま行けば大会の優勝も夢ではないと、コーチは興奮気味に語っていた。そんなコーチの興奮に感化されるように、チームメイトも口々に意気込みなどを語った。うちらも例外ではない。

3 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:00 ID:.JjfUKJQMf

「わぁー!終わったー!そういやすず?ごはんどうする?」
「ん?ああ、どうしよっか? 今日ハードだったし、ガッツリ行きたいな〜?」
 隣で妹の根古屋珠子(呼び名はたま)が大きな伸びをしている。練習が終わった後は腹の虫がひどく鳴き始める頃合、家までに空腹を我慢する気力は残っていないので、外食をよくしている。所謂ご褒美というものだ。
「じゃあ!ハンバーグ食べたいな」
「ハンバーグ? いいね!じゃ早速行こ、あたしが家に連絡入れておくわ」
「サンキュ!」
 そう言うとたまはレストランの方角に向けて全力で走り出した。先程まで練習でバテていた姿は何処にもなく、ワクワクした表情を浮かべ角へ消えてしまった。あたしはたまの後ろ姿を見送ると、家に連絡を入れる。

4 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:19 ID:.JjfUKJQMf
「もしもし、ママ? うちらハンバーグ食べてくるね。……うんうん、わかった。たまにも言っておく。 ……ふんふん、えへへ♪じゃあね」
 通話を切り、スマホをポケットにしまうと歩き出した。あたしはのんびりとたまの後を追うことにする。そうすればウェイティングタイムをできるだけ減らすことができるから、そう思いながらレストランへ向かう。

 そこから10分程度歩いていると、レストランを示すネオンが目に飛び込んできた。そこにはでかでかと店の名前が書かれており、昔から変わらない光景だ。
 相変わらず派手だなと見つつも、興味の対象は漂ってくる肉の焼ける匂いに向きそのことは一切目に入らなくなった。横断歩道を渡り、店の駐車場に入ると入口にたまの姿があった。話しかけようとしたが、二人組と話している様子だ。

5 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:36 ID:.JjfUKJQMf
 桃色のロングヘアーにちょこんと飛び出たアホ毛、金髪のセミロングにサイドテール。見覚えがあったので気にせず話しかける。
「おーい、鳩谷ちゃん、猿渡ちゃん!久しぶりー!」
「わっ!? やっぱりいるよな……」
「ネコちゃん!……ううん、スズちゃん久しぶり!!」
 猿渡ちゃんは驚き、鳩谷ちゃんには大歓迎で迎えられた。
「……遅かったね、ちょうど鳩谷ちゃんたちとバッタリここで会ってね、相席することになったよ」
 たまは隣に移動しこっそりと耳打ちをした。

6 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:54 ID:.JjfUKJQMf
「……ナイス!」たまに返すと、2人に向き直り、「大人数で食べたほうが楽しいもんね〜ここは特に、ね!」とテンション高めで言った。すると、鳩谷ちゃんもあたしと同じテンションで「うん!楽しみ〜!」と、返してくれた。
 やっぱり鳩谷ちゃんは面白い。あたしは普段会わない人の名前を長く覚えていることは無いが、彼女の名前だけは忘れていない。あと、ついでに猿渡ちゃん。
「そういえば、あと何分待ち?この時間ならすぐだと思うけど?」
「えっと、あと10分で案内されるみたい」と、猿渡ちゃんはスマホを取り出して画面を見せてくれた。
 そこには何人待ちやお店の名前、予約人数が浮かんでおり、中央には「残り時間10分」右上には「4人」と表示されている。あたしはざっと画面を見ると、お礼を言い鳩谷ちゃんに話しかける。

7 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:11 ID:.JjfUKJQMf
「ねえ、来週の大会の完成度はどれくらい?うちらはほとんどパーフェクトだよ」
「そうなの?じゃあ、私たちはオールパーフェクトだよ!!」
 鳩谷ちゃんは胸を張って言った。これは相当自信があるようだ。春の大会で見たパフォーマンスでは全員のレベルが飛躍的に上がっていたので、あながちハッタリではないと思える。
「特にね!……ムッ!?」
「こはね!これは秘密だろ あはは……」と、猿渡ちゃんは喋り出そうとした鳩谷ちゃんの口を塞ぎ、誤魔化すように笑った。

8 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:27 ID:.JjfUKJQMf
 チアは対戦競技では無いが、情報のアドバンテージは強力だ。それを管理している猿渡ちゃんはまるでお母さんみたい。
 ただ、あたしは大会で秘密とやらを見ればいいと思っているのでここでの興味は無い、が、突っつけば面白い反応が返ってきそうなので聞いてみる。たまもそう思っているだろうし、アイコンタクトをし同時に口を開く。

「「ねぇ、鳩谷ちゃんは何を言いかけてたの〜」」
「気になるぅ!」「うちらにだけこっそりおしえてよぉ」
「ううっ……駄目だよ!!宇希との……約束だからね!」

9 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:49 ID:.JjfUKJQMf
 そのとき、鳩谷ちゃんの発言に少し違和感を持った。しかし、なぜそう思ったのかはわからない。猿渡ちゃんを見る目が先ほどとは異なっていたことが原因だと一瞬考えたが、明確な理由はなかった。ただ、これ以上聞いても無駄だと思ったからこの話題は置いておく。
「ん〜……まいっか〜」「じゃあ、大会楽しみにしてるよっ」
「……う、うん! ネコちゃんたちのチアを見るのもすごい楽しみだよっ! ねーっ!!宇希ぃ!」
「わっ!?……あぁ、そうだな……」
 猿渡ちゃんは鳩谷ちゃんに抱き着かれて、顔が真っ赤になっていた。その様子に仲がいいな〜と思いつつ、鳩谷ちゃんの表情を何気なく観察していると、やはり違和感があった。仲の良さをわざとうちらに見せ、「私のモノだ」とでも言うような、捕食者の色が瞳に浮かんでいたからだ。そして、猿渡ちゃんの反応を愉しんでいるように見えた。

10 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:36:27 ID:.JjfUKJQMf
 しかし、敢えて”わざと”というほどのことではなく、以前の鳩谷ちゃんからは考えられない色だから、その小さな差異すらも強烈にあたしの目に映った。
 これで確信した、鳩谷ちゃんは「面白い」のではなく、「すごく面白い」ということに。そして、One on Oneで話してみたいという願望も湧いてきた。たまには悪いとは思うけれど、後で共有すれば納得すると思うしやってみたい。
 そう考えていると、猿渡ちゃんが気付いたようにスマホを取り出し「時間だ」と、見せてくれた。画面には待ち時間が0になり、青い点線の丸に囲まれた案内開始の文言が中央で点滅している。

11 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:36:44 ID:.JjfUKJQMf
「やっぱり話しているとあっという間だねぇ」「楽しいことは一瞬だよぉ」
「そうだね〜!新鮮だし、楽しい」
「3人とも固まって、店内で広がっていると迷惑だからな」
 そう猿渡ちゃんに注意されながら店内に入った。中に入ると、肉の焼ける良い匂いがあたしの鼻を楽しませてくれている。
 店員さんに促されるまま席に座ると、メニューをざっと見て向かいの席に座った鳩谷ちゃんに渡す。鳩谷ちゃんは「早いね」と驚いていたが、注文するメニューはここまで来る途中で決めており、むしろ遅いくらいだ。隣のたまも猿渡ちゃんにメニューを渡している。

12 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:02 ID:.JjfUKJQMf
 2人はメニューに一通り目を通すとうーん、と悩み始めた。ここのレストランはハンバーグがメインだが、ステーキやハンバーガーもあってメニューが豊富だ、サイドメニューを含めるとそこから何十通りの選択肢があり大変だ。ただ、最も美味しいものは既に決まっており、この店に通っている人間ならば暗黙の了解になっている。
 うちらはドリンクも、もう決まっているため、たまと一緒にデザートのメニューを見て、時間を潰した。今はメロンフェアをやっているようで、メロンの果肉と果汁を使ったパフェやジュースがでかでかと載っている。とても美味しそうだ。
「決まったよ、ネコちゃん!」と、声が聞こえたのですぐさま店員さんを呼び、注文をした。

13 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:23 ID:.JjfUKJQMf
「鳩谷ちゃん面白いもの注文したね」
「えっ!?そうかな?」
「この店でなかなか渋いよ、いぶし銀。頼んでるの初めて見た!来たら1口貰ってもいいかな?あたしのハンバーグも1口あげるから」
「いいよ♪そうだ、宇希も食べる?」
「うーん、そうだな……じゃあ私も貰うかな。でも、私の物もちゃんとあげるぞ」
「あぁっ、ズルぅい!うちも!!」
 その後も雑談をしていたが、料理が運ばれて来たため中断した。料理が運ばれ終わると、あたしはまっさきに取り皿を鳩谷ちゃんに渡して、料理を分けてもらった。もちろん、頼んだハンバーグとトレードで渡したが気持ち多めにしたため、相手も気持ち多く盛ってくれた。

14 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:38 ID:.JjfUKJQMf
 同様に2人も料理を交換して、さながらピクニックのようだ。全体的に茶色寄りだが、微妙に彩りの異なる料理がプレートに乗っていて可愛い。
 ここでご飯を食べる時は基本は家族で行き、シェアをしたりしなかったので、それが新鮮でいつも以上にハンバーグが美味しいと感じた。

15 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:00 ID:.JjfUKJQMf
 食事が終わり雑談中、猿渡ちゃんのスマホが鳴り出した。どうやら家族からの連絡らしく、席を立ち上がり店の外へ行った。それにあたしのセンサーがピーンとなり、すぐさま、たまに耳打ちをした。
 たまは最初は難色を示していたが、メロンパフェを奢ると言ったらウキウキで席を外してくれた。余計な出費だが、楽しみの前には替えられない。ふたりが角に消えていったことを確認すると興味津々に話しかける。

16 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:24 ID:.JjfUKJQMf
「ねぇ!鳩谷ちゃん!」
「えっ!?何かな?」
「なんか鳩谷ちゃんすごい変わったよね〜?」
「そ、そうかな……??」
 鳩谷ちゃん考えてる……。興味丸出しで言ったので、何か変なことを言われるのを警戒している表情だ。ぞくぞくする。
 次に言う言葉が重要だ、猿渡ちゃんが戻ってくるまでそう時間はないだろうからつまらない問答を繰り返したくはない。ならば、核心に迫った一言でいいだろう。
「鳩谷ちゃんが変わったのは恋かな?」
「…………。」
 鳩谷ちゃんは黙っている。しかし、確定だろう。鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしているから、鳩谷だけに。

17 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:42 ID:.JjfUKJQMf
「あっ!でも猿渡ちゃんに言う気はないよ、それは安心して」
 それを聞いた鳩谷ちゃんは胸を撫で下ろしたように、息を吐いた。
「ねぇ、コイバナ聞かせてよぉ、それかきっかけ?」
「……きっかけ、というものは分からないけど、何となく好きだなって思っていたんだ、でもいつからか宇希を見てると胸が苦しくなってね……」
「へぇー!それでそれで!」
 

18 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:06 ID:.JjfUKJQMf
「そうだね……私が海外に行くことを決心した時だったかな〜」
「えっ……!?」
 あたしは思わず大きな声を出しそうになり、慌てて口をおおった。あまりにあっさりと出た、鳩谷ちゃんの「海外」という言葉、まさに寝耳に水という表現しか無いように思った。それと同時に正体不明の不安があたしを突き抜けた。
「どうしたの?ネコちゃん??」
 机を挟んで心配そうに覗き込んできたので、空元気で答える。
「あはは、なんでもないよぉ!でもすごいね海外なんて……」
「ううん、大したことはないよ、ただ宇希と離れなくちゃならないのは苦しいけど……」
 海外に行ったあとのことを想像しているのだろうか、苦虫を噛み潰したような表情をしている。それにはいつもの楽天的で能天気な顔はなく、真剣な考えを伺うことができる。

19 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:23 ID:.JjfUKJQMf
 そのあまりにも地に足が付いたような言葉に思わず、あたしは馬鹿にしたような口調で「そんなこと言うなら辞めちゃえばいいのに、猿渡ちゃんのためにもね」と言いそうになった、が、必死に堪えた。口に出していいことと悪いことはちゃんと弁えているし、海外に行く為に頑張っているであろう鳩谷ちゃんにとやかく言う権利はないはずなのに、言いたくなったのは何故だろうか。普段は考えない意地悪なことを言いたくなって、あたしはあたしが理解出来なかった。

20 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:38 ID:.JjfUKJQMf
「おーっす、二人ともお待たせ〜」と助け舟のように妹の声がした。その後に「遅くなってごめん」と猿渡ちゃんの声もした。そこで湿っぽい思考が中断され、たまにメロンパフェを奢らなければなならないことを思い出したので、さっそく注文する。
「いいねぇ、二人は何か頼む?すずの奢りだよっ」
「たまっ!調子に乗らない これはこの子が適当に言ってるだけだからね!!」
「あぁ。まぁ、こはねはデザート頼むか?」
 鳩谷ちゃんはデザートメニューに目を通し、選んでいる。何を注文するのだろう。
「う〜ん、じゃあ私はこのバナナミルクかな〜」

21 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:58 ID:.JjfUKJQMf

 しばらく待っていると、デザートが運ばれてきた。どちらもおいしそうであるが、ごちそうする立場なので恨めしそうにたまのメロンパフェを見ていると、一口だけ分けてくれた。メロンの果汁がみずみずしく、とてもおいしかった。
 二人が食べ終わると、会計のためにレジへ向かう。会計を分けてレジをしていたが、「バナナジュースおごるよ」と言ってしまった。あたしの突然の宣言に3人は困惑していたが、「奢りって言ったでしょ??」と強引に押し切って会計を済ませた。

22 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:40:30 ID:.JjfUKJQMf
 店の外に出た後、お金を返す返さないの押し問答があったが、それも「あたしがバイトで得たお金だしそれを使うのも自由!!」と、突っぱねて渋々ながら納得してもらった。
 帰り道、たまが「なんかすずらしくなくない?」と不思議そうな顔で聞いてきたが、笑ってごまかした。そうしないとモヤモヤを払拭することができないと思ったからだ。
 今日の一件はあたしの中で大きなしこりとして残った。

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名前 age
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